【入力】
目標が転ばずに歩く事であれ、300kgのデッドリフトであれ、その行動を可能にする為には感覚の入力が必要です。例えば「転ばずに歩く」が目標であれば、バランス感覚を司る「前庭系」という感覚が正常に入力され知覚できる必要があります。
「前庭系」とは「三半規管」や「耳石器」と言われるものの事で、解剖学に詳しくなくても三半規管と聞けばバランス感覚に関係あるという情報は聞いたことがあるでしょう。この前庭系の主な仕事は「重力に対しての上下関係」と「頭部と身体の回転や加速の状態を常にモニターする事」です。つまりこの前庭系というセンサー自体からの情報が正確でなければ、転ばずに歩く事が困難になるのです。
では、300kgのデッドリフトのケースではどうでしょう?「体性感覚」とは簡単に言えば「筋、関節、皮膚などから得られる様々な感覚情報」です。よく筋トレをする時は「鍛えている筋肉を意識しましょう」などと言われたりしますが、お尻の筋群を鍛える種目なのに、全然使えている気がしないと言う方をよくみかけます。つまり、お尻の筋群を使うはずの動きをしたとしても、そこを使っている感覚が得られないのは体性感覚を知覚する事が困難である事が考えられるのです。300kgのデッドリフトでは臀筋群は勿論の事その他の高重量を引き上げるのに必要な全ての筋群が最適なタイミングで一気に収縮すると同時に全ての関節の絶妙なコントロールが必要となります。実際には体性感覚のみの問題ではありませんが、筋、関節のコントロールに必要な体性感覚からの「入力」が正常に働いている必要があることがイメージできます。
【解釈】
1つの入力に対して、その情報をどう解釈するかはその人の能力や経験や環境に大きく影響を受けます。健康な方であれば平な道を転ばずに歩く時の歩行パターンと、地上100m、幅1メートルのコンクリートの橋を歩く時の歩行パターンはまるっきり違うでしょう。これは歩くための機能が危険であるという解釈によって歩行という出力が変わってしまう事を意味しています。
言葉の通じる日本で初めての土地に行ったとしても歩行パターンが変わるほど緊張することはなくても、言葉の通じない外国で地図を見ながら目的地を探している時の歩き方はどこかおぼつかないような感じになるかもしれません。行動という出力は「安全/可能」や「危険/予測困難」という解釈によってそのパフォーマンスが大きく影響される事がイメージできます。
【出力】
多くのトレーニングやリハビリなどで注目され易いところが「出力」でしょう。左図にもある通り、目の前に現象として現れている行動やパフォーマンスはわかり易いため指導対象となり易いのですが「入力⇨解釈⇨出力」の観点から考えると指導対象となる出力に変化を及ぼすには、その前の「入力」と「解釈」への介入が必要である事がわかります。
バランス能力に問題がある人に転ばずに歩くことを指導をする時に「体幹を意識して」や「踵から接地して母趾球で押し出すように」と指導しても、そもそもそれを可能にする前庭系や体性感覚からの情報が不十分であれば、結果を期待するのは困難でしょう。
関節や筋力などの局所的な機能は評価対象ですが「入力⇨解釈⇨出力」ループにおけるネットワーク内の何が問題であるかを探さない限り改善が困難となります。